役所的思考と科学的思考の比較
ここでは、NHK受信料問題からちょっと離れるかもしれないが、科学的思考と役所的思考について触れてみたい。このページを設けようと思ったのは、「負担金」という文言に出会ったときである。これこそ、役所的思考から生まれたものだと感じた。また、筆者の記述には、多分に仮説と捉えられる主張が含まれていることを認識している。科学的思考には、多くの仮説から始まることが多い。そこで、役所的思考と科学的思考の対比を思いついたのである。
役所的思考、あるいは考察とは、法令主義、前例主義、引用主義が、多数決の原理に基づいてなされる一連の思考過程をさす。この役所的思考過程は、真実又は事実の追求ではなく、多数決によって決定されたことが、法令化され、これまでなされていたことが踏襲され、以前の発言が引用される、という流れである。
つまり、役所的思考では、真実、あるいは事実とは何か、の追求ではなく、多数決によって決められたことが、事実認定となる。一度決めたことは、容易に変更することはなく、たとえ、不合理であろうとも、変更には長い時間を要する。
その例として、冒頭でも触れたが、「負担金」の問題があるのである。
負担金については、「だましのテクニック」のページで述べているので、参照していただければと思う。
一方、それと対極にあるのが、科学的思考である。仮説、実証、定説、訂正、事実認定、と続く一連のながれである。まず、仮説を立て、実験によって確かめ、定説となる。また、後日矛盾が明らかになれば、訂正することに何ら躊躇はない、更に実証がされ、事実認定と進んでゆく。
役所的思考の例としては、冒頭でも述べたように「負担金」のページがあるので、そちらを参照していただくとして、ここでは、科学的思考の例を挙げてみたい。
その中で、筆者が最も、顕著な例として挙げたいのは、アルベルト・アインシュタイン、とアルフレット・ウェゲナーの2名の名前を上げたい。この二人の業績は、それ以前と違うあまりにも革新過ぎて、発表当時、受け入れる人はほとんどなく、その考えが認められるには、長い時間を要した。しかしながら、その業績は、認められ、現在の我々の生活にも、大きな恩恵を与えている。
アインシュタインは20世紀最大の物理学者と呼ばれ、特殊相対性理論などを唱えた。
アインシュタインの特殊相対性理論は、光の速さを絶対唯一不変とし、時間・空間は相対的に変化する、ということを基に構成された理論である。ここから導かれるものとして、物体が運動すると、質量が増加したり、長さが縮んだりする。また、運動している物体の中では時間の進みが遅くなるという。それまで、誰もが予想だにしなかった、驚くべきものであった。もっとも、それは、運動するものが、光の速さに近づいたときに観測されるもので、我々の日常生活にその変化を実感することはない。アインシュタインの理論を役所的思考で採決したら、おそらく過半数の賛成は得られず、永遠に認められることはなかったであろう。なんと、科学的思考のありがたさよ。
アインシュタインの業績で、我々の生活の中で、見いだせる例を挙げてみよう。
世界で、最も美しい方程式と言われるものに、アインシュタインの次の式がある。
E = mc2 (イー イコウル エム シー ノ ジジョウ )と読む
E はエネルギー m は質量 C は光の速さ を表す、この式は、
エネルギー=物の重さ×光の速さ×光の速さ ということになる。
例えば、3g の角砂糖に含まれる、エネルギは次のようになる
光の速さを 約 30万Km/秒 とし、3g = 0.003Kg とすると
E = 0.003Kg×300,000,000m×300,000,000m
= 270,000,000,000,000 …… (注1)
27の後に、0が13個も付くという計算になる。たった、3gの角砂糖にも、これだのエネルギ(物を動かることのできる力)が含まれていることになる。読者の皆様には、式の複雑さには、目を向けず、ただ、0の多さに驚いていただければよろしいと思う。
さて、これが現在の我々の生活にどのような関わりがあるというのだろうか。2017年から2018年初頭にかけて、北朝鮮の、核爆弾開発と弾道ミサイルの報道が、連日テレビで放送された。あわや、アメリカと北朝鮮の戦争勃発か、というところまできたが、幸いにも、平昌(ぴよんちゃん)冬季オリンピックがあり、一時的に情勢は落ち着いた。
この、アインシュタインの E = mc2 の式が表すことは、ごく少量の物質の中に、莫大なエネルギーが、含まれていることを表している。このことが、原子爆弾の開発の、根本理論として関わっているということである。もちろん、これは悪い例であるが、原子力の平和的利用としては、原子核分裂を利用した、発電が挙げられる。東日本大震災による、福島第一原子力発電所の事故は、まことに悲しいことと、言わなければならない。しかし、資源の少ない我が国が、今後も、今の快適な生活を維持していくには、この技術を安全に維持、利用することは欠かせないと考える。
次に、ウェーゲナーである。
ウェーゲナーは地震発生や火山噴火の仕組みの基となり、プレート理論につながる、大陸移動説を唱えた
この論文も、発表しても、なかなか受け入れられなかったようだ。考えてみれば、そもそも、地球が「球」であることが証明されたのは、今から、わずか約500年前の大航海時代のことだ。それまでは、地球はどこまでも平らに広がるものと考えられていた。
ある地点から、真っすぐに出発すると、行けば、行くほど出発地点からは離れることにな。ところが、その後、更に真っすぐと進んで、とうとう、元の出発点に戻ってしまった。このことが、起こるのは、球の上を進む以外にあり得ない。
15世紀半ば、マゼランとエルカーノによって、世界周航がなされ、地球が「球」であることか実証された。
自ら住んでいる大地が動くなど、「聖書」を信仰する国々の人々にとって、神が作った地球が、そんな不完全なものであるはずがなく、絶対認められない、長く人々に受け入れられなかった理由の中に、そんな思いもあったのではないか。それで、思い起こされるのは、ガリレオガリレイの話である。彼は、地動説を発表したことで知られる。当時、神が作った地球は、宇宙の中心にあり、すべての星は、地球を中心に回っていると信じられていた。ところが、ガリレオガリレイは、望遠鏡を使っての観測から、回っているのは地球の方だと発表する。このことにより、当時のキリスト協会から裁判にかけられ、有罪になったとされる。
さて、地震大国日本において、地震は毎日のように起こる。大きな地震では、テレビで、警報が流れ、解説が行われる。その解説の中で、必ず使用されるのが、プレートの関係性である。日本列島は、太平洋プレート、フィリピン海プレート、北アメリカプレート、ユーラシアプレートの4つのプレートに囲まれている。太平洋フレートとフィリピン海プレートは日本列島の下に入り込んでおり、その圧力と反発によって、地震や火山の噴火が起きる、と説明されるのを、しばしば目にする。
その、プレート理論の基となったのが、大陸移動説である。地震大国日本にとって、その起きる仕組みを理解するうえで、大変重要な発見をしたウェゲナーは、大きな貢献をしたと思う。
以上のように、科学的思考の例として、2人の科学者を上げた。科学者の「このように考えた方が、真理に近づく、あるいは、合理的とし」仮説をたて、実証を経て我々の生活に役立っている。一方、役所的思考では「真理の探求、合理性を」必ずしも求めない。その原理は「多数決」である。真理や合理性は決定権を持たない。より多く支持を得た方の考えが採用される。
(注1) エネルギーの単位は、複数あり、どの単位を取るかによって、数値は変わる。ここでは数値の正確さより、0の数の多さに驚いていただくのが、目的なので、この値を採用している。