読売新聞(YOMIURI ONLINE) より引用
商工中金不正 公的金融の意義を問い直せ
公的融資の水増しを全社的に行っていたとは、あきれるほかはない。
商工組合中央金庫(商工中金)による危機対応融資の不正問題で、経済産業省などが業務改善命令を出した。経営責任の明確化や企業統治体制の強化を求めた。
危機対応融資は、金融危機などで経営難に陥った企業に低利融資する制度だ。リーマン・ショックなどの際、商工中金と日本政策投資銀行を通じて、倒産拡大を防ぐ「安全網」の役割を果たした。
商工中金は危機が去った後も、取引先の売上高などを実際より悪い数字に改ざんして、危機融資の実績を上積みしていた。
不正は、全100店舗のうち97店で見つかった。件数は4609件に上り、2646億円が不正に融資されていた。まさに組織ぐるみの不祥事である。
原因は、過剰なノルマ主義や取締役会の機能不全など多岐にわたっている。危機融資を武器にして組織の維持・拡大を図ったと言わざるを得ない。
安達健祐社長(元経産次官)はできるだけ早期に辞任し、後任を民間経営者らから選ぶ方向となった。当然の対応である。
商工中金には、安達社長をはじめ所管官庁のOBが天下りしている。政府系金融機関のトップや役員を官僚OBの“指定席”としてきた慣行を改めねばならない。
商工中金を監督する経産省の責任も重い。管理不行き届きとの批判は免れまい。
経産省は危機対応融資に対する検査と同時に、制度立案や予算獲得、事業推進などを担っていた。結果的に、不正の背中を押すことにならなかったのだろうか。
経産省は世耕経産相や次官が給与を返納する処分を行った。組織としてのけじめをつけたというが、甘さは否めない。
経産省の有識者会議は、商工中金の在り方について年内に結論を出すという。「平時」における商工中金の体制や適正規模について踏み込んで議論してほしい。
民業圧迫の実態や完全民営化の是非を含め、商工中金の存在意義を問い直すべきだ。
不祥事を受け、危機対応融資の「不要論」もくすぶる。ただ、危機は突然に発生・拡大する。平時は対象や規模を大幅に絞りつつ、公的融資を機動的に発動できる枠組み自体は維持したい。
無論、危機を装った不正が繰り返されることのないよう、融資実態の監視強化など、制度を厳格化する必要がある。
2017年10月28日 06時01分 Copyright © The Yomiuri Shimbun